デジタル戦略・データ分析・AIアルゴリズム開発を軸に、企業の問題に向き合うMETRIKAが、別領域で活躍する人々をお招きする「連載 METRIKA with」。今回はKDDI総合研究所 副所長の木村寛明さんをお招きし、METRIKA COO澤村と小西の3人で、未来のライフスタイルを創造する研究拠点「KDDI research atelier」や、現在一緒に運営している共創イニシアチブ「FUTURE GATEWAY」を立ち上げた思い、これから社会実装を目指す新しいライフスタイルについて語ります。
小西:まずはKDDI research atelierについて教えていただけますか?
木村:KDDI research atelierは、2030年を見据えてライフスタイルがどのように変化していくのかを想像し、その実現に向けた課題をテクノロジーで解決していくことをミッションとしています。KDDI research atelierを本部拠点としながら、先進的なライフスタイルを実践されている生活者の方々と一緒に、「FUTURE GATEWAY」(以下:FG)と呼ばれる共創イニシアチブを立ち上げ、未来のライフスタイルの創造を目指してワークショップを開催し、そこで出てきたアイディアをプロジェクト化し、実フィールドでの検証を進めています。
小西:METRIKAは、FGの立ち上げからご一緒させていただいていますよね。どのような背景で立ち上がったのでしょうか?
木村:私たちが保有する先端技術を活かしながら、未来のライフスタイルから逆算して新しいサービスの開発ができないか考えていました。しかし我々だけの目線で考えていると、生活者が欲しいものよりも企業の考えを優先したものになってしまうと悩んでいました。もっと生活者起点で未来を考え、プロジェクトを立案していく必要があると思っていたんです。
澤村:最初に木村さんからそうやってご相談をいただいたとき、のび太くんのような人が必要だと思ったんです。あれが欲しいこれが欲しいと、自分の欲しいものを思いつくことができる人。加えて、世の中の少し先を走っている人。だって2022年時点で欲しいものを、今から作り始めても遅いですよね。
小西:のび太くん......。確かに。
澤村:そんなことを二年前くらいに、ここの会議室で僕たちは話していたんですよね。そこから運営チームをつくり、のび太くんのような先進的生活者の方々に「t’runner(以下:ランナー)」と名前をつけて、FGを始めたんです。
木村:実際にやってみると、今までの私たちであれば立ち止まってしまうような場面でも、ランナーの方々がアイディアを繋いでいってくれるんです。生活者との橋渡しをしてくれているような状況ですね。彼らは常に現場目線なので、生活者の欲しいものをつくっていくマーケットインの状態でプロジェクトを進めていくことができます。
小西:さまざまな会社がある中で、なぜMETRIKAだったのですか?
木村:当初は澤村さん以外に、他のコンサル会社さんなどにもご相談をしていました。そこで事業的な位置付けや、これからのライフスタイルについて考えていくうちに、独自性が鍵となることを確信したんです。他とは違う、でも実は生活者が求めていることをやっていかないと次に進んでいけないなと。
澤村:コンサル企業が、先進的なライフスタイルを調査分析し、こういうことをやりましょうと提案するのはもちろん可能なことです。でも実際に僕たちみたいにそのライフスタイルを実践している人に話を聞く方が、やっぱり熱量が高いんですよね。そこにコミュニティを作れば、もっと色んなアイディアが生まれていきます。
小西:私もFGのワークショップに参加して、これまでになかった視点を得たり、わからなかったことが見えるようになりました。それにFGで色んなお話しを聞いていると、いち生活者としてワクワクします。
木村:採択したアイディアやライフスタイルを、どう広げていくかは重要な課題のひとつでした。でも先進的な生活をしている方々は、自分のネットワークを持っている人たちばかりなんです。なので彼らがやることは、自然と周りに伝わっていきます。SNSで活躍するインフルエンサーのようにではなく、もう少し密な関係性のなかでローカルに広げていくことが可能なんですよね。それを実際にコミュニティ化することで、共感してくださる方が増えるのかなと考えていたんです。
小西:ランナーの方とお話しすると、私も真似してみたいなと思えるんです。実は完全食を始めたり、会社を辞めて新しい働き方を試してみたりと、かなり影響されています。実際にやってみることで、そのほうが自分らしく生活できていることに気がつくこともあります。最終的に、このプロジェクトに関わる前より幸福になっているんですよ。
澤村:当事者が言うと説得力がありますね(笑)。
木村:FGでのプレゼンの場「サバンナピッチ」では、原体験に基づいて実現したいライフスタイルの提案をされる方が多いですよね。そうなるとやはり説得力があるし、KDDI reseach atelierのメンバーでも小西さんのように影響を受ける人が増えてきました。
小西:ランナーを中心に、みんなが共感して熱狂して、一緒に課題を解決していく。一つひとつのプロジェクトがベンチャー企業みたいですよね。
小西:METRIKAがFGに関わっていく中で、面白い化学反応はありましたか?
木村:澤村さんは我々とはまったく観点が違うので、社内の人間だけでは見えなかったものが見えてくることがあります。本質をすぐに見いだされるので、相談事へのアドバイスを明確に頂けることがありがたいです。
澤村:8年以上大手企業にいたので、企業としての考えを理解することも、そこから外に出たからこそ言えることもあると思います。それに実は僕自身も、多拠点生活者であったりポートフォリオワーカーであったりと、ランナーと近しい生活を送っているんです。自分の失敗体験も含めて、実際に色んな立場からプロジェクトを理解できるのは、FGに関わる上でよかったことですね。
小西:METRIKAでは、FGでのワークショップとランナーインタビューもずっと担当していますよね。
澤村:以前FGのインタビューについてご意見を伺った際に、普通にライフスタイル調査を行うときにでてくる候補者リストに比べて、インタビュー候補者の質が高いとおっしゃってもらえたのは嬉しかったです。ライフスタイルイノベーターだね、と。
木村:でもMETRIKAさんのメイン事業は、もう少しアカデミックに近いデータ開発ですよね?
澤村:そう思われがちなのですが、METRIKAの根幹にあるのは社会課題の解決や現状のライフスタイルへ切り込んでいくことなんです。データサイエンスは、あくまでもその手段だと考えています。結局どんなデータも、それを使う方が喜んでくれないと意味がないので。なのでFGに関して言うと、現在揃っている材料をこれからどう活用していくのか、高い視座から考えていくことが必要だと思っています。そのために必要なのは、ビジネスとクリエイティブ、テクノロジーの要素を常にチームに組み込むことだと考えています。
木村:私がFGとMETRIKAで一緒にやりたいこととしては、見える化の促進があります。たとえば現在FGで進めているクライマタリアン(気候変動を考慮した食生活)のプロジェクトでは、食品ごとに排出されている温室効果ガスの量を見える化していきたいと考えています。もちろんデータを羅列するだけでは誰も興味を持たないので、そこはクリエイティブやテクノロジーも活用していきたいです。
小西:ビジネス、クリエイティブ、テクノロジーのどれが欠けても成り立たないんですね。一方で、FGの課題についてはどのようにお考えですか?
澤村:新しいライフスタイルを社会実装していくためのパートナーリングが大切になると考えています。現在FGで、美容室と一緒に新しいライフスタイルをつくっていくプロジェクトが立ち上がっています。そこで実際に表参道の美容室へ相談しに行ったのですが、かなり熱く賛同してくださって。ただし「お客様の期待を裏切らないように、自分達の世界観は保ちたい」とのご意見も頂きました。こうやって、自分たちが何を大切にしているか、どんなポリシーで日々の活動を行っているか言語化できる方々と一緒であれば、足並みを揃えてどんどん進んでいくことができると思います。
小西:その部分も、クリエイティブやテクノロジーが入る余地ですよね。
澤村:そうなんです。そこに加えて、プロジェクトを一緒に行うことで美容室に利益が上がること、しっかりとマネタイズできるようなモデルを組む必要があります。かつ、FGに参加することで、もっとたくさんのお客様が「その美容室に行ってみたい」と思えるようにしたいですよね。
木村:このプロジェクトが成功して認知されるようになると、FGであれば何か新しいことができるのかもしれないと可能性を感じていただけると思います。今後も、社会課題の解消に繋がる新たなライフスタイルの一般化を目指し、多様なコミュニティやプロジェクトを増やして、ポートフォリオを強いものにしていきたいです。
澤村:僕たちが一緒に活動していくランナーや、ライフスタイルイノベーターって、お金のために活動している方々ではないと思うんですよね。その方々が実際に何をしているのか、何を大切にしているのかを観察し、実際にビジネスに繋げていくことができればと思っています。一人で両方できなくても、チームとして役割が明確であれば、FGは持続的になるのだろうと思っています。
KDDI総合研究所
取締役執行役員
副所長