データサイエンス・AIの力で企業の問題に向き合うMETRIKAが、別領域で活躍する人々と対談していく「連載 METRIKA with」。今回は空間デザインをメインに人々のアイディアを最大化していくNOD代表 溝端友輔さんをお招きし、METRIKA COO澤村と、それぞれが共通して大切にしている価値観や、建築の未来について語ります。
澤村さん:簡単に、自己紹介をお願いします。
溝端さん:2019年に設立したNODという会社で、空間を使ってクライアントさんのアイディアを最大化するお仕事をしています。大きく言うと建設業ではありますが、上流の企画から入るので、アウトプットは空間デザインに限りません。戦略だけお手伝いすることもあれば、ウェブサイトを作ることも。最近は特に3Dプリンティングに力を入れていて、新しいものづくりや空間作りの可能性を日々探っています。
澤村:空間を作るのは、目標達成の手段なんですね。
溝端:そうなんです。どんなものを作るかに関しては、自分の欲求に従ってものづくりをすることが多いです。自分を含めた関係者が、いかに楽しめるかが大事。自分達が行きたいお店を作るとか、欲しいものを増やしていきたいんです。
澤村:なるほど。溝端さんの欲しいものって?
溝端:「らしさ」が滲み出ている場所には関心があります。その人にしか作れないような空間や食べ物、体験を最終アウトプットとして生み出していけるような設計をしています。僕が関わることで、その人らしさを最大化したいんです。
澤村:クライアントさんと一緒に創り上げていくんですよね。METRIKAも同じです。コンサル業ではあるけれど、僕達が何かを教えるとか、正解を提示することはなくて。だって一緒に新しいことをやっているんだから、どうすればいいかを僕らが知っているわけがない。答えを言い切れないからこそ、議論を深めながら正解を探していく作業を一緒にやっている感覚です。もはやパートナーですよね。そういう仕事のほうが成果も出やすいと感じています。そうじゃなければ、METRIKAがやる必要もないかなと。
溝端:確かに、「なぜ僕らがやる必要があるのか」は大切ですよね。相手に自分らしさを求めるなら、自分達も「らしさ」を発揮していきたい。
澤村:自分達が関わることによって唯一無二性を生み出していけること、それが付加価値になり世の中に伝わっていくことをやりたいなと感じています。
澤村:3Dプリンターに興味をもったきっかけは?
溝端:もともと興味はあったけど、あまり良い印象を抱いてはいなかったんですよね。データをコピペして作るものだから、強度が低い上にお金も必要なイメージで。でも1年半前くらいから、空間を作るプロジェクトのなかで実際に3Dプリンターを使う機会が増えてきました。技術的に難しいことでも3Dプリンターならできちゃうし、色んな素材を使えるところが面白いなと思い、のめりこんでいきました。
澤村:淹れたあとのコーヒーとか、卵の殻ゴミとかも素材として使ってますよね。
溝端:はい。使う必要がなくなればまた素材に戻すことができるので、必要に応じて他へと再利用することが可能になります。素材レベルで半永久的に使い続けることができるものが作れるんです。技術面に関しても、大きなイノベーションだと思います。普通の建築では施工性を優先すべき場面でも、3Dプリンターなら自由度高く造形することができます。本当にやりたいことを、そのまま形にできるんです。
澤村:違う素材で同じものを作ってみるのも面白いですよね。コーヒーを素材にしたときも、深入りと浅煎りで色が変わったり。3Dプリンターは最新テクノロジーですが、そういう肌触り感を大切にしている部分があるなと思います。
溝端:最新テクノロジーなのに、作品に人間味がでてくるのはおもしろいですよね。特に最終アウトプットまでの距離も短くなるので、誰でも等しくものづくりをすることが可能です。今までは発注する側だったプロジェクトのオーナーさんが、デザイナーさんのサポートを受けながら自分で作成に関わっていくことができるようになります。そこで僕が将来的に実現したいのは、3Dプリンターでの人の創造性の最大化です。ものを消費するために買うのではなく、誰もが自分でデザインをして、生産をして、使うという環境づくりまでをやってみたいと思っています。
澤村:自分で考えて作ると、愛着も沸きますもんね。
溝端:最近のものって、耐久性が良すぎたり、クオリティが高すぎるものが多いじゃないですか。でも何十年も使い続けるより、その時々に自分が欲しいものが買えるようになったらいいなと思うんです。なぜなら人の価値観って、ライフステージによって変わるから。
澤村:確かに。作っては壊すの繰り返しが環境に悪いなら、耐久性が良いものを作ろうとするのは理解できるけど、壊したあとも素材にもどるのであれば、「短く使う」という新しい価値観があってもいいのかなと思います。大量生産大量消費じゃなく、環境に配慮した状況で人々の価値観に寄り添うことが3Dプリンターならできるような気がします。
溝端:人って、意外と我慢しながら生活してますよね。もっと欲望のままに選んだりすることができるようになれば、面白くなるんじゃないかなと思います。
澤村:何かを作るときって、既に型があるじゃないですか。でもそこを取っ払った方が、それぞれが「らしく」生きることができるようになると思っていて。そのときに、AIとかデータサイエンスが得意なパーソナライズの力が活きると思います。
溝端:3Dプリンターによって、建築や造形デザインとデータの距離が近くなりました。ものづくりのプロセスとして、データを作るところからスタートします。データとものの関係性がより密接になり、物理的な経年変化に加えて、そのデータを誰がどう生み出し、使ったのかというデータのビンテージ性がもう一つの価値として見出されてくると思います。加えて、僕達は現地の素材から作品を生み出すというオンサイト性を重視しています。そのためには、どこにどんな素材があるのかというデータも必要です。都市全体で3Dプリンターを流通させ、素材に関するデータをアーカイブしておけば、もう新しくものを買わなくて済むようになるんですよ。
澤村:地産地消を促進できるし、廃棄の問題を解決できる可能性がありますよね。あとこれは僕の解釈ですが、昔の建築では、無理するのがかっこいいという価値観を感じていました。イタリアで焼いたタイルをわざわざ輸入したり、その土地では採れない大理石を無理やり敷き詰めたり。でも地球環境全体で考えると、はたしてそれはかっこいいことなのかなと思うんです。もともとはその土地に即した住居や、陶芸品を作って生きてきたわけなのになと。なのでこれからは、人間がテクノロジーをつかうことによって、より自然な姿に戻っていくことができるのではないかと思っています。
溝端:3Dプリンティングや都市作りを通じて、人間らしさを取り戻していくことができるというのは、僕も面白いと思っています。近代の工業化では、場所に制限されることなく、同じものを大量に作ることが重視されてきました。でも技術がもっと進めば、それを保ちながらも人間らしさを大切にしていくことができると思います。
澤村:METRIKAはAIやデータサイエンス、NODは3Dプリンターと、どちらも新しいことをやっているけれど、どちらも人間の本来性を大事にしたいと思っていますよね。温かみのあるサービスやプロダクトを開発したいと思っているところが共通の価値観だなと思います。
澤村:今僕がやりたいのは、国宝に登録されているお茶碗のデータを取り込んで、3Dプリンターで印刷すること。そこにかける釉薬で遊ぶことで、同じデータからでもそれぞれが唯一無二になると面白いなと。加えて、新宿にある都庁前に茶室をゲリラ出現させて、そのお茶碗を使いながらベンチャー経営者のみなさんとお茶会をしたい。名付けて、勝手にダボス会議(笑)。
溝端:技術的には全然可能だと思いますよ(笑)。
澤村:最近よく、大手企業だけではなくベンチャー企業側からの意見を、もっと国へと主張していくべきだと考えています。制度や、政治に対して。そのための茶会をぜひ3Dプリンターで実現させたいですね。他にも一緒にやりたいのは、3Dプリンター×食の事業。特に基準外野菜に対してアプローチしていきたいです。基準外野菜は、成長のしすぎや変色が原因で市場に出回らず捨てられてしまうもの。しかし見た目は違えど、味や栄養価はなにも変わらないんですよね。だからと言ってB級品として流通させると、A級品の値段が下がってしまう。それを避けつつ基準外野菜を活かしていくために、野菜を粉末化することで、3Dプリンターでものづくりをする際の素材として保存したいんです。保存期間が伸びるので付加価値付けができているし、フードロスの問題を解消できるなと。
溝端:ぜひやりましょう。
澤村:ひとつ壁があるならば、ユーザーの価値観がまだ追いついてきていないことでしょうか。
溝端:市場から新しく作っていく取り組みになりそうですよね。
澤村:そうなんです。3Dプリンターへの理解がある人が、やっぱりまだ少ない。でも人の価値観を変えることは難しいので、自分達のまわりにいる進んだ価値観の人をまず巻き込んで、市場を作ってしまうほうが簡単かなと最近は考えています。ライフスタイルを含めた生き方が似ている人達でアーリーアダプター集団みたいなものを作っちゃえばいいと思ったんです。
溝端:10人くらいに使って貰えば、そこから市場を作っていくことが可能ですもんね。
澤村:アーリーアダプターがどこにいるかってわかりづらいから、そこと事業者を繋いでいくこともやっていきたいですね。でもやっぱり、新しい価値観や商品を面白いと思えるかどうかってすごく大事だと思っていて。自分の知らないものを拒否したり無視することは人間として普通の行動です。でも「なにそれ面白いじゃん!」って前のめりになってくれるパートナーや、クライアントさんと一緒にお仕事できると、良いものをどんどん世の中に作り出していけると思っています。
株式会社NOD 代表取締役
取締役
COO