【METRIKA talk:一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事 坂野 晶さん】社会の仕組みにアプローチしながら、個人は意思のあるアクションを。 ⁠坂野晶と探す、地球環境への向き合い方。

データサイエンス・AIを武器にデータと戦略を紡ぐMETRIKAが、様々な領域で活躍する人々と対談する「 METRIKA  talk」今回は一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事 坂野晶さんをお招きし、COO澤村と、行政と企業が持つそれぞれの環境問題へのアプローチ方法や、データが環境問題に関してできることについて話します。

大好きな鳥を絶滅から救うために、環境問題の道へ

澤村:はじめに、坂野さんが環境問題に興味を持ったきっかけを教えてください。

坂野:幼い頃から鳥が好きでした。特にインコやオウムが大好きで。そんな中、ニュージーランドにいる世界最大のオウム「カカポ」という鳥を知りました。でもカカポは、人間の入植によって絶滅危惧種になってしまった生物なんですよね。「一番好きな鳥が地球上から消えてしまう。救わなきゃ」という気持ちから、環境問題に興味を持つようになりました。

澤村:個人的な興味が起点となっているのですね。

坂野:単純ですよね(笑)。でもそこから、環境問題を仕事にする難しさにも直面しました。絶滅危惧種の保護を直接的にする仕事、自然保護官なども考えたのですが、それは大事な仕事である一方、なぜ絶滅危惧種が生まれるのかについての根本的な解決にはならないなと。もっと人間活動のあり方自体を変える必要があると思ったんです。そこから大学では、社会の仕組みの決定に関与する「政策」をやろうと、環境政策を専攻しました。

澤村:僕も大学で、環境経済学を専攻していました。ESG投資について勉強していたのですが、国内でこれを仕事にするのはあと10年くらいかかるだろうなと思って離れたんです。僕たちの世代は、もしかしたらそういう人も多いのではないかと思います。坂野さんは、これまでどんな働き方をされてきたのですか?

坂野:大学卒業後は一般企業で2年間働き、そのあとは大学時代の友人の縁で徳島県上勝町の「NPO法人ゼロ・ウェイスト・アカデミー」に参画しました。上勝町は2003年に国内初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った自治体です。ごみは専門外でしたが、地域の環境政策に実践で取り組める機会だと思ったんです。 ⁠その後、2020年に独立し、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンを設立。全国で廃棄物削減や資源循環の政策づくりと実装、特に自治体との仕事として、まだ表面化していない市民の声を行政に聞かせ、仕組みを作り、実装するまでのお手伝いをしています。 ⁠直近では株式会社ECOMMITという循環商社のベンチャーに取締役として参画しました。 ⁠ECOMMITは誰かにとって不要とされたものを回収・選別・再流通することで循環型社会を作る事業を行っています。トレーサビリティとデータ化までを自社で行い、収集したデータはダッシュボード上で自動集計され、リユース・リサイクル率の算出や、CO2削減量のレポーティングに活用できます。 ⁠ゼロ・ウェイスト・ジャパンで取り組んでいる自治体での取り組みは息の長いものも多く、一方ビジネスであればより早く資源循環の仕組みを作ることができると感じ、企業でも仕事を始めました。

行政は大きな流れを、企業は意思を持ったアクションを。

澤村:環境問題を世界的にみると、やはり欧米は進んでいるなと感じます。彼らは個人単位で危機意識を持ち、それを政策に反映するからどんどん自分たちでルールメイクしていってる。日本は今そこに乗っかっているだけかつ、市民の声を聞いているだけなので仕組みは作っていけなさそうだなと......。坂野さんはそのギャップをどのように捉えていますか?

坂野:環境問題における国外との温度差の一つには、人口バランスが大きく関係していると思います。加えて陸続きで移民も多いため諸外国からの影響を受けやすい。私たちは小子高齢社会の島国かつ、経済圏が国内でほぼ完結していますよね。そのため企業も行政も内側ばかりを向いている。言葉を選ばずにいうと、平和ボケしているのだと思います。

澤村:確かに。行政だけでなく企業のサステナビリティ担当者と関わる機会が増えているのですが、トレンドの変化は追い風になっているものの、まだまだ取り組みが進んでいないとも感じます。一方で、日本は国のルールが変わればすぐに状況が動いていく文化だと思うんです。以前ある経営者の方が「環境問題は玉突き事故のようだ」と仰っていたのが印象に残っていて。自分がどれだけ頑張っても解決に進まず、むしろ頑張るだけ損をしてしまうのが環境問題だと。もちろん個人の努力は必要ですが、それがまだコストになってしまう社会であるのが現状です。全体で動いていく必要がありますよね。

坂野:そうですね。たとえばCO2に関しては、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて国の政策が動いています。政策手法は様々ありますが、例えば財源の割り当て方が変われば産業全体が変わっていく推進力になります。企業はそこで、しっかり自分たちの意思を持って取り組んでいくことが大事だと思います。

澤村:経済活動を行う団体として、環境問題へのアクションによって生み出される価値を明確にする必要がありますよね。

坂野:その通りです。むやみに全部やろうとすると本当にコストがかかってしまうだけ。そもそも会社として何を大切にしているのか、なんのためのアクションであるかを自分たちで理解している必要があります。たとえばプラスチック削減に関しても、最近は色んな企業が横並びでやっていることなので「私たちがそれをやる意味とは?」と問いを持つことは大切だと思います。もちろん大前提として取組はするべきなのですが、一方で、優先順位という意味ではもしかしたらその企業がもっと他に優先してやるべきトピックがあるかもしれないので。

澤村:環境問題にも色々ありますもんね。生物多様性や水資源、鉱物資源。もちろん企業には環境問題だけではなく、人的資本経営に関する課題など、取り組むべきテーマがたくさんあります。漠然と全てに取り組むのではなく、まずは選択と集中をする必要がありますね。行政が国の仕組みを変えて大きな川の流れを作ることも必要だし、それぞれが意思を持って問題に取り組んでいくことも、大事なのだと思います。

「繋ぐ」ことで、環境問題にアプローチしていく

澤村:先ほどから話のベースになっている「行政」と「企業」において、やはり連携していく必要がありますよね。

坂野:どちらも、その組織内だけで頑張ろうと思っても無理があります。私が理事を務める一般社団法人Green innovationでは、世代縦断・分野横断で行う人材育成プログラム「Green Innovator Academy」を主宰しています。もちろん育成だけではなく、行政と企業の仕切りを取り払い、繋がりを持つことができるコミュニティとしての機能もあるんです。

澤村:そういうコミュニティから環境問題の理解者が生まれ、企業や行政に影響をもたらしていくのでしょうね。僕自身も、環境におけるローカルリーダーがもっと必要になると考えています。

坂野:私もまったく同じ考えです。澤村さんは、どのようにしてその考えに行き着いたのですか?

澤村:さまざまな自治体の方とお話しをして、やはりうまくいっている場所とそうでない場所の違いはリーダーがいるか否かだと思ったんです。特に広島県は知事も担当者の方も、パッションを持ち自分事として環境問題に取り組まれている姿勢が素晴らしいなと思いました。適切な危機意識と共に、ビジネスチャンスとして向き合うスタンスも持っておられました。

坂野:そうですよね。やはり現場を知るリーダーが必要です。たとえば専門家を派遣したとしても、彼らはハイレベルなところに留まってしまうことが多いです。自治体の現場では専門家がいないことはもちろんですが、計画だけ立てても実行できるキャパシティがない。口を出すだけではなく、ちゃんと文脈をわかっている「実行者」がいることが大切です。なので私たちはよく、推進人材と専門人材という言葉を切り分けて使っています。

澤村:なるほど。METRIKAはデータの会社なのですが、そこで僕たちが出来るのは「繋ぐこと」だと思っています。仰るとおり専門家は一つの事象に集中することが多いので、それらを繋いで全体としての成果を可視化することはデータが担うべき部分だろうなと。企業でも行政でも忖度なしで事実を表す数字があれば、次のアクションに繋げていくことができるのではと考えています。

坂野:政策をつくる際にもデータは必須です。どうしても万人の声を聞くことができず、偏っているのではと批判されやすい政策立案において、データや仕組みを使いながらマイノリティの声を拾っていくことで新しい政策ができていくことが大切です。

澤村:はい、データによる成果の可視化は重要だと思います。また、環境問題への取り組みはどうしても外部不経済を正すという観点で政策の方針や補助金の割当など、行政の影響が大きいですよね。民間においても、補助金頼りではなく、取り組みがしっかりと事業として成立して、それこそサスティナブルなものになっていないといけません。課題が大きいからこそ、地球環境分野に取り組む企業同士が連携して、大きなうねりを作っていきたいですね。

今後目指している事

坂野:現在3つの組織で取り組んでいること、ECOMMITで循環型社会を創っていくためのインフラを整える、Green Innovator Academyで領域横断で実行者になれる人材を育成する、ゼロ・ウェイスト・ジャパンで地域ごとの実践事例を増やしていく、この3つ巴の取組で、社会のトランジションを加速したいですね。

坂野 晶さん(Akira Sakano) 

株式会社ECOMMIT取締役CSO

坂野 晶さん(Akira Sakano) 
兵庫県西宮市生まれ、鳥好き。絶滅危惧種の世界最大のオウム「カカポ」をきっかけに環境問題に関心を持つ。大学で環境政策を専攻後、モンゴルのNGO、フィリピンの物流企業を経て、日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町の廃棄物政策を担うNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーに参画。理事長として地域の廃棄物削減の取組推進と国内外におけるゼロ・ウェイスト普及に貢献する。米マイクロソフトCEOらとともに、2019年世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)共同議長を務める。2020年より一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンにて循環型社会のモデル形成・展開に取り組む。2021年、脱炭素に向けた社会変革を起こす人材育成プログラムGreen Innovator Academyを共同設立。京都大学大学院地球環境学修士。2022年より株式会社ECOMMIT取締役CSO。