デジタルトランスフォーメーション(DX)は、製造業にとって避けて通れない重要なテーマとなっています。特にデータを活用した「データドリブン経営」は、企業の競争力を大きく左右する要素の一つです。今回のMETRIKA withでは、製造業におけるデータドリブン経営の価値と実現に向けた取り組みについて、METRIKAのCOO 澤村俊剛氏と、村田製作所のシニアデータサイエンティスト山田一郎氏が実際の導入事例や現場でのデータ活用の課題、そして人材育成の重要性にも焦点を当てながら語り合いました。
澤村: データドリブン経営という言葉がよく聞かれるようになりましたが、これは単にデータを集めるだけではなく、そのデータを活用して意思決定を行うプロセスを指しています。特に製造業では、データをリアルタイムで分析し、生産プロセスを最適化することでコスト削減や品質向上が図れます。山田さん、村田製作所ではどのようにデータドリブン経営を実現しているのか、お聞かせいただけますか?
山田: 私たち村田製作所では、データドリブン経営を推進するために、まずデータを一元管理し、製造プロセス全体でデータの可視化を行っています。これにより、どのプロセスがボトルネックになっているか、リアルタイムで把握できるようになり、生産ラインの改善に直結する施策を講じることが可能になっています。
澤村: 具体的には、どのような成果が出ていますか?
山田: 一つの例として、リアルタイムデータの活用によって、生産ラインの稼働率が大きく向上しました。また、不良品率を大幅に低減することができ、結果として製造コストの削減にも繋がっています。このように、データドリブン経営は製造業において非常に大きなメリットをもたらします。
澤村: データをどのように活用するかは、製造業において特に難しいテーマです。大量のデータが生成される中で、どのデータを分析し、どう活かすかということが問われます。特に、データの収集と分析のプロセスには課題が多いですよね。
山田: そうですね。データを収集するだけでなく、それを適切に整理し、分析可能な形に整えることがまず重要です。また、データ分析は一度行えば終わりではなく、継続的な改善が求められます。製造ラインでは、リアルタイムデータをどれだけ迅速に分析し、それを現場にフィードバックできるかが鍵です。
澤村: データ活用の現場での具体的な課題は何でしょうか?
山田: 一つはデータの整備です。製造業では、非常に多様なデータが存在しますが、それらが一元管理されていないことが多く、データの断片化が問題になります。データの断片化はまず持っているデータ分析をして結果を示さないとわからないことが多く、データ分析者がいなければ問題を問題として認識できないため、一元管理するということに対する本当の理解が得られない、費用も掛かかってしまうなどこの問題はさらに深刻になります。また、データの品質管理も大きな課題です。不正確なデータが混入すると、分析結果が信頼できなくなり、意思決定に悪影響を及ぼします。
澤村: その通りですね。製造業は特に、データの収集や管理において複雑さが伴いますが、それを解決するためのプロセスが重要です。先ほど山田さんがおっしゃったデータの品質管理は非常に重要です。データドリブン経営を成功させるためには、データの正確性を担保する必要があります。また、データガバナンスやセキュリティも大きな問題ですね。
山田: 特に製造業では、機密性の高いデータを扱うため、セキュリティ対策が必須です。また、データガバナンスも重要で、誰がどのデータにアクセスできるかを明確にする必要があります。これを怠ると、データの乱用や漏洩のリスクが高まります。
澤村: 具体的に、村田製作所での取り組みを教えていただけますか?
山田: 私たちは、データガバナンスの強化を徹底しています。特に、データのアクセス権限を厳格に管理し、必要な人だけが必要なデータにアクセスできるようにするなどデータ品質を低下させないための、旧来と異なるデータ管理および管理人材、管理技術が必要になります。
澤村: 製造業におけるデータドリブン経営を推進するためには、データを活用できる人材の存在が欠かせません。特にデータサイエンティストの役割は非常に重要です。山田さん、村田製作所ではどのようなスキルを持ったデータ活用人材を求めていますか?
山田: 村田製作所では、単にデータ分析ができる人材ではなく、現場の業務や製造プロセスを深く理解していること、かつ必要があれば現場のプロセスを変えデータを活用できる人材が求められています。データサイエンティストとしての統計学やプログラミングのスキルはもちろんのこと、製造現場のニーズを的確に理解し、データから引き出せる情報がどのような価値を持つかを判断できる能力が必要です。また、ビジネス視点を持って、経営判断に資する情報をデータを基に語ることができることも重要です。
澤村: 確かに、データサイエンティストには技術スキルだけでなく、現場の課題を理解し、解決策を提案できるような実務的な能力も求められますね。人間が“読める形”をしていない膨大なデータを、人間が解釈でき、実際の行動につなげるようにする“情報”に変換することは、とても大変で重要な作業だと思います。実際に、データの技術面に偏ると経営の意思決定と噛み合わないことが多いです。そこで、現場とデータ活用の間に立つ「橋渡し役」としての能力も必要だと感じます。また、理想としては意思決定側の枠組みを変えること自体にも役割を果たすことが求められます。
山田: そうですね。特に製造業のような大規模なシステムでは、データサイエンティストが単独でプロジェクトを進めることは難しく、設計者や開発者、現場の担当者との協力が不可欠です。こうした協力関係の中で、データを活かしてどのように業務改善を行うかを設計できる力が重要です。また、データサイエンスが関わった結果、どのように事業に貢献できたかを定量的に把握し、レポートできるような力も必要です。
澤村: そのためには、データ活用人材の育成が非常に重要になってきます。村田製作所では、どのような人材育成プログラムを実施していますか?
山田: 私たちの育成プログラムは、データサイエンスの知識部分については座学的に学び、後に実際のプロジェクトでデータを活用する実務経験を積ませることに重点を置いています。特に、製造現場におけるデータ活用のポイントになる経験、勘、度胸の項目をどうデータの価値に組み込んでいくかを理解させ、現場での経験を通して成長してもらうことが目的です。
澤村: 実践的なプロジェクトへの参加を通じて、より深くデータ活用を学ばせるというアプローチは非常に有効ですね。私たちMETRIKAでも、データサイエンティストの育成プログラムにおいて、理論と実践のバランスを重視しています。技術的な知識だけでなく、どのようにしてデータをビジネスに活かしていくかという視点も同時に教えています。
山田: 特に重要なのは、データ活用の目的を明確にし、それを実現するためのスキルセットを提供することです。データ活用人材は単に技術者としての能力だけでなく、ビジネスに対してどのような価値を提供できるのかを深く理解し、実現したい世界観、ストーリーとして語り、受け入れてもらうことが求められます。
澤村: それでは、データ活用人材を育成するためのコンテンツには、どのような要素が必要だと考えますか?
山田: まず、知識を身につけるための基礎コンテンツは当然必要です。例えば、統計学やプログラミングのスキルを習得するための教材や、データ分析ツールの使い方を学ぶためのトレーニングが重要です。しかし、それだけでは不十分で、知識として知っているだけに終わらず、実際の業務の中で使うことのできる技術スキルとするための業務に即したケーススタディや、現場の問題解決をシミュレーションするような実践的なコンテンツも必要です。この段階をしっかり整備することが大切だと考えています。
澤村: そうですね。私たちの育成プログラムでも、現場での経験を重視しています。理論を学んだだけではなく、実際に製造業のデータを使って分析し、具体的な改善策を導き出すというプロセスを通じて、データ活用の本質を理解させるよう努めています。また、データサイエンティストとしてのキャリアパスを明確に示すことも、モチベーションを高める上で重要です。
山田: キャリアパスの提示は非常に大事ですね。それぞれの企業がどういった人材を求めているか、製造業を理解できるデータサイエンティストなのか、設計、開発などの現場の人材がデータサイエンスの技術スキル・分析技術だけでなくデータリテラシ―をもつパスも考えられる、その中でデータサイエンティストとしてのスキルをどのように磨いていけばよいか、また、将来的にどういった役割を担うことができるのか、それによってどういった処遇・待遇を用意しているのかを企業が自社の企業活動の中で明確に示すことが、優秀な人材を確保するための鍵になります。
株式会社村田製作所 デジタル推進部
データサイエンス課 シニアデータサイエンティスト
株式会社METRIKA
取締役COO